長野地方裁判所 平成11年(ヨ)9号 決定 1999年4月27日
主文
一 本案判決確定に至るまで、債務者土屋武弥は、債務者ダイアパレス木島平自主管理組合の理事長兼理事の職務を、債務者森二郎、同新田稔、同瀬戸郁穂、同千葉忠男、同田中正武、同塩谷幸次、同山本義憲、同田淵敏治は同組合の理事の職務をそれぞれ執行してはならない。
二 債務者ダイアパレス木島平自主管理組合は、右各債務者に前記各職務を執行させてはならない。
三 右期間中、債務者ダイアパレス木島平自主管理組合の理事長兼理事の職務代行者として次の者を選任する。
長野市県町四五九-一〇 旭町ビル二階
弁護士 鈴 木 英 二
四 申立費用は債務者らの負担とする。
理由
【事実及び理由】
第一 判断の前提となる事実
一 ダイアパレス木島平(以下「本件マンション」という。)は、長野県下高井郡木島平村所在の二二四戸からなるいわゆるリゾートマンションで、本件マンションにはダイアパレス木島平自主管理組合(以下「本件組合」という。)と称する管理組合がおかれている。
二 債権者ら及び債務者らはいずれも本件マンションの区分所有者であり、債務者土屋武弥は、本件組合の理事長の職にあるものであり、その余の債務者は同組合の理事である。
第二 当事者の主張
一 債権者ら
1 建物の区分所有に関する法律(以下「区分所有法」という。)二〇条二項<編注:原文ママ>による解任請求
(一) 管理費の目的外使用
(1) 本件マンションの管理費は、本件マンションの規約二〇条によって、使途が制限されており、敷地及び共用部分等のうち通常の管理に要する費用にのみ利用しうることとなっている。
(2) ところが、債務者らは、平成一〇年五月四日の本件組合の定期総会に、株式会社フェニックスリゾート(以下「本件会社」という。)という会社を設立した上、右会社の出資金として本件マンションの管理費の中から三〇〇万円を出資するため、区分所有者に右出資の具体的内容について不明確な記載のみがなされた議案書を送付することにより、区分所有者の委任状の提出を受けて、右出資を内容とする議案を可決せしめた。
(3) しかし、管理費の使用目的は区分所有法においても本件マンションの前記規約によっても制限を受けているものであり、管理費によって営利法人に出資をすることは、右制限の範囲内にはなく、総会における議決を経たとしても右制限の範囲外の支出をなし得ることになるものではないから、右支出は違法な管理費の支出である。
(二) 多目的ホールの建設
本件規約五五条によれば、共用部分の変更については特別決議を要し、議決権の四分の三の同意を必要としている。
しかし、債務者ら理事は、右特別決議を経ずに共用部分に多目的ホールを建設し、右建設に四五〇万を支出した。
(三) 債務者らがなした前記(一)及び(二)の各行為は区分所有法二〇条二項<編注:原文ママ>の「不正な行為」に該当し、本件マンションの区分所有者である債権者らは同条項に基づき、債務者らの解任請求をなし得る。
2 保全の必要性
仮に、債務者らが引き続き職務執行をなしたなら、債務者らは、本年の総会において、自ら作成した不明確な議案書を送付することにより、内容を十分知ることのない区分所有者から白紙委任状の送付を受け、右出資の議案を再議決した上、理事として再選を受けることになり、債権者ら他の区分所有者は右の不正行為を阻止することができない。
現に、債務者らが作成する区分所有者に対する広報には「木島だより」に再審議の議案を提出する旨が記載されている。
二 債務者ら
1 管理費の目的外使用
債権者らの本件会社設立及びそれに対する管理費からの出資金支出は、本件マンションがリゾートマンションとしてのサービスを委託していた株式会社ユングフラウの経営破綻により、本件マンションがリゾートマンションとしての機能を失い、右機能を代替する必要があったこと、管理費の滞納が多額になり本件マンションの部屋を第三者にリゾート目的で使用し収益をあげる方法により右収入を未納管理費に充当するという方法での管理費の回収をすることが必要であったことからなされたものであり、本件マンションの管理上必要不可欠なものである。
2 多目的ホール建設
多目的ホールの建設をしたことは認めるが、特別に新たに建物を建設したり、従来の使用方法を全く変更してしまう工事をしたわけではなく、従来株式会社ユングフラウが自動販売機をおいていたが、当時は使用されていなかったスペースにドアを付けて組合管理事務室に仕様変更したにすぎず、単なる改良行為にすぎない。
3 保全の必要性
債務者らは、本年二月末日に任期を満了しており、誰が理事になり、誰が執行部を構成するかは今年五月に召集される総会において決議されることであり、新執行部によって適正に招集された総会の判断に委ねれば足りる事項であり、債務者らの職務執行を停止する実益はない。
第三 当裁判所の判断
一 区分所有法二〇条二項<編注:原文ママ>による解任請求
1 《証拠略》によれば、債務者らが本件マンション管理組合の第八回総会(平成一〇年五月四日実施)に先立ち議案書を提出し、右議案書中には第一号ないし第五号及びその他の議案が存して、その中の第三議案、第九期事業計画(案)のA1(5)には「組合活動の充実化および将来の管理費等の負担軽減を図るための施策を検討する。(事業法人化を図る)」との記載があること、右総会において、右第三号議案を含めた各議案が可決されたこと、右議決は、議決権総数二二四名のうち出席者四六名、委任状一〇二名での合計一四八人の出席に基づきなされたこと、右議決を受けて、平成一〇年七月二四日に、本件マンション組合理事長土屋武弥作成の「新会社設立による株主募集のお知らせ」と題する書面が区分所有者に送付され、右書面には、新会社フェニックスリゾートは、自主管理組合を筆頭株主とし、区分所有者からも株主になる者を募集した上で設立をなす予定である旨の記載がされていること、株式会社フェニックスリゾートの定款は平成一〇年六月一〇日付けで作成されており、それによれば、右会社の目的は内外観光旅行の案内、斡旋及び代行業務、不動産の売買、賃貸、管理及びその仲介、建物、施設及び設備の設計、施工及び修繕、スポーツ用品の販売及びレンタル業、日用雑貨の販売及び輸出入業、各種印刷物の印刷、作成、販売及び代行業務、リゾートクラブ、レストランの経営及び代行業務、前各号に付帯する一切の業務とされていること、本件組合の広報である「木島だより」に右の会社設立について次回の総会において再審議する旨の記載がされていること、本件組合の規約第二〇条には、管理費は、委託管理費、一般管理費等通常の管理に要する費用にのみ使用しうる旨の記載がされていることの各事実が認められる。
2 前記のとおり、規約によって管理費の使途が管理に要する費用に制限されている以上、右使途以外に管理費を支出することは許されず、本件組合が出資をして筆頭株主になろうとしている本件会社の目的は前記認定のとおりで、債務者らも認めるとおり本件マンションの管理のみを目的としたものとはいえない以上、本件会社への出資は管理に要する費用の支出とはいえない。したがって、右支出がなされたとすれば、違法な支出となる。
債務者らは、滞納管理費徴収の必要性から右目的が正当化される旨を述べるが、出資先の会社の目的が管理費徴収のみである場合のように、目的の全てが管理の範囲内にあるのであればともかく、本件会社の目的は管理の範囲を大きく逸脱するもので、収益により滞納管理費による負担の軽減がはかれるとしても、そのことにより直ちに支出が適法となるものではない。
また、総会における議決を経ている点につき検討すれば、右総会の議案においては、前記のとおり、事業法人化についての概略が記載されているにすぎず、本件マンションがいわゆるリゾートマンションで、第八回総会においても大部分の区分所有者が委任状により議決権を行使しているという実態をも加味すれば、右議決により本件会社への具体的出資が承認されたと認められるかは疑問であり、現に債務者らは次回の総会において再審議を行う旨を述べている。よって、右議決によって、本件支出が適法となるものではない。
二 保全の必要性
《証拠略》によれば、債務者らの任期は本年二月に終了しているものの、規約によれば後任者が就任するまでは引き続き職務を行う旨記載されている上、理事の再任は妨げないものとされており、従来から前任の理事が議案を提出し、多くの区分所有者から委任状の提出を受け、議案の可決及び次回理事の選任をなしている総会の実態や債務者らが次回総会にも第八回総会の第三号議案同様の議案を再提出しようとしていることからみれば、次回総会が行われる前の現段階において、債務者らの職務執行を停止し職務代行者により適正な組合運営を行う必要性は存するものといえる。
三 結論
よって、他の事情について判断するまでもなく、債権者の本件各申立てはいずれも理由があるから認容し、職務代行者として主文掲記の者が相当であると判断し、主文のとおり決定する。
(裁判官 廣沢 諭)